過去記事『「AIがあるから英語は不要?」への反証――むしろ英語力のハードルは上がっている』では、主に英語を書く力 (ライティング) について述べた。
この記事における私の主張の当否はさておき、今度は、英語を話す力 (スピーキングやリスニング) について考えてみたいと思う。
そのための前提として、近い将来、AIの更なる発展の結果、高精度 (例えば、今の文字ベースのアウトプットと同等の精度) の同時通訳が不便なく使えるようになったという状況(※)を想定してみる。今の生成AIでは、私の知る限り、少なくとも読み書きのように、時差が許容され、しかも文字という没個性のコミュニケーション (上記記事で、文体や言葉のチョイスに人間らしい個性が表れると述べたが、少なくとも文字は、英語であればアルファベットと記号しかないので、コミュニケーション手段としては没個性と言っていいだろう。) において、英語話者を一定のレベルで模倣するのがせいぜいで、音声でのリアルタイムのコミュニケーションを不自由なく行えるようになった、とは言えないだろう。だから、この想定を置く。
※ 今のiPhoneに「ライブ翻訳」という機能が付いているようで(リンク)、私はandroidユーザーなので詳細は分からないが、これと近い状況はすでに起こりつつあるのかもしれない。
このように、「もう今の時代、AIがあれば、英会話だって問題ありませんよね (便利な世の中ですね)」となった場合、あるいはそんな世の中になることが近い将来確実となった場合 (すでに確実なのかもしれないが)、英語のスピーキングやリスニングの能力や、これを伸ばす努力は必要だろうか。
私は必要だと思う。
まず、精度の問題。
現時点で、一定時間の思考を経たうえでのテキストベースのアウトプットの段階で、ハルシネーションが時折起こることは誰もが知るところで、そしてこのAIの欠点はここ数年、AIの回答精度が格段に高まり続けるなかでも消えていない。特に専門的な内容 (医療とか法律とか) に関わるほど、「専門家に確認してください」の免罪符が末尾に付いてくるように、AIが人間の補助として用いられる以上、「人間の確認を経ない形での、専門的用途への利用」は許容しえないはずだ。誰かが「メール等の文章の起案であれば、今のAIでも十分に利用できるね」と言ったとき、どこか言外に「てことは、近い将来、会話もAIでできるようになっちゃうかもね!?」という期待を感じることがあったりするわけだが、どこまでAIによるリアルタイム通訳の技術的精度が上がったとしても、そのリアルタイム通訳機能は、「リアルタイム」という特性ゆえに、ユーザである人間による確認を経たうえで発話されることができないから、結局、正確性が重視される場面では使い物にならない、ということにならないだろうか。
例えば重要な契約や和解交渉の場面で、ハルシネーションが起こり得る「リアルタイム」の通訳機能などが使えるだろうか。自分でそのAIによる通訳結果を聞いて、「あ、今こいつ(AI) 間違ったな」と気づいて即座に訂正できるレベルの会話力があればまだよい (しかし、その訂正する様は滑稽だろう。周りから見たら、「うわ、なんか急に本体 (本人)が喋りだしたぞ」という感じか。)。そしてそのレベルの会話力がなければ、言い間違いが致命傷になってしまった場合、責任を取ることができるのか (もちろんAIサービスの提供者は取ってくれないだろう)。仮に、弁護過誤の責任は損害賠償を行えば果たせるとして、そもそも「そういう問題ではない」だろう (金を払えば、間違って車で人を轢いてしまってもいいのか)。「AIの責任ある利用」(responsible use of AI) とは、 (本当はどういう意味かは知らないが) AIの利用に際して起こったミスに関して、「AIのせいでした」「自分ではAIをきちんとコントロールできていませんでした」という言い訳を許さない、ということなのではないか。
そしてこれは、弁護士に限らず、あらゆるビジネスの現場で英語を話す場面に共通することではないだろうか。
要するに、精度の問題とは、「たしかに今、AIの日⇔英翻訳機能はかなり優秀だけど、それを一瞬もレビューせずに、そのままメール本文にコピペして迷いなく送信ボタンを押せますか (それほどの信頼に足りますか)?」ということである。
ただし、ハルシネーションと抽象的に言ったが、知見や助言を求める際のハルシネーションの頻度・度合いと、言語翻訳の際のハルシネーションの頻度・度合いは、(程度問題ではあれ) 一応の違いはあると思う (もちろん前者の方が間違いが起こりやすい) ので、この精度の問題だけでは決定的ではないとは思う。
ということで、合わせ技であと3つ (個性の問題、インターフェースの問題、矜持の問題) ほど理由があるが、ちょっと文章が長くなったし寝る時間になったので、また後日書きたいと思う。
では!