1. 勉強スタイル、要した時間等について
2. 使用教材について
(1)全体像
以上については過去記事①参照
(2)各教材の説明
【インプット教材】
・日本人ノート(というよりも「日本語が(も)書かれたノート」であること。なんでもよい)
日本人弁護士の諸先輩方が作成されたまとめノートをこの業界では「日本人ノート」と呼ぶが、やはりこれはあった方がよい。
もちろん、作成者の国籍が問題なのではなく、最も重要なのが、日本語で記述されているという点である。日英併記のまとめノートもあるので、それでもよい。ちなみに他の州(NYなど)の試験用のものでも問題ないと思う。
ネイティブレベルの英語力を備えていない限り、未知の法制度や概念を学ぶ際に、まずは日本語で大枠を知ったうえで、必要に応じて英語で知識を深めていく方が、理解が進みやすいだろう。
各科目について、まずザっと全体像を掴むために斜め読みし、その後は何度も折に触れて辞書的に用いるのがよい。
面白いもので、理解度が皆無または浅い段階では、大まかな説明しか理解できないが、勉強を進めていき理解度が高まっていくと、最初は意味が分からな過ぎて読み飛ばすしかなかった詳細な説明も、少しずつ頭に入っていくようになる。
ちなみに、この日本人ノートは、事務所等の先輩などから比較的容易に入手することができると思うが、もし入手が困難な方は、個別にご連絡いただきたい。
具体的な使用方法については、勉強方法に関する項で後述する。
・Smart Bar PrepのMCQ Smart Sheets
主要科目(Constitutional Law、Civil Procedure、Contracts、Criminal Law&Procedure、Evidence、Real Property、Tort)について、各科目ごとに、5~10頁程度にまとめたまとめノートである。
これは、個人的に、論文試験・短答試験対策の両方における、インプット教材の完成形であり最終終着点であると考える。
この教材に書かれた内容の粒度で各論点をコンパクトに頭の中で理解し、出力できるに至れば、合格に必要な学力はすでに得られている。
なお、論文でしか出題されない科目(Community Property、Wills、Trusts、Professional Responsibility、Remedies、Business Associations)についてのインプットは、別の教材を用いる必要がある。
これも具体的な使用方法については、勉強方法に関する項で後述する。
なお、私の転機は、Smart Bar PrepのCA Essay Priority Outline(各科目について数十頁でまとめた論文試験対策用の論証集である。イメージとしては、日本の司法試験の論証集に質・ボリューム的に近い。後述のとおり、この教材は用いるべきではないというのが私の意見である)で一生懸命にインプットしていたところ、事務所の先輩(NYの有資格者)から「そんなの覚えられるわけ無いからダメだよ!」と言ってもらえ、代わりにこのSmart Sheetsの使用を推奨してもらえたことだったと思う。あの瞬間がなかったら、合格はなかったと思う。この点も、後述する。
日本の司法試験でもそうだが、「眠訴」と言われるように、民事訴訟手続というのは、まさに「実際の手続」が分からないと全くルールが頭に入ってこない。何が行われるのかが分からないのに、その行われることに関するルールを覚えることが難しいのは当たり前である(サッカーをプレイも観戦もしたことがないのに、サッカーのルールは理解できまい)。
そこで困っていたところ、たまたまこの本に出会って購入し、読んでみたら非常に素晴らしかった。
特に、米国民事訴訟におけるPersonal Jurisdictionの考え方や裁判での争われ方、ディスカバリー制度の実態など、日本の民事訴訟には存在しないが、カリフォルニア州司法試験では極めてヘビーに問われる論点についての手触り感のある説明はとても役に立った。
私が入手した当時は通常の価格で買えたのだが、今Amazonで見てみると20,000円超のプレミア価格が付いてしまっている。しかしKindle版であれば通常価格での購入が可能なようであるため、ぜひそちらを利用してほしい。
・「アメリカ憲法入門」(自分は第8版を中古で購入したが、何版でもよい)
これも同様に、日本法にはない概念を手触り感のある形で理解するために非常に役立った。
例えば、Dormant Commerce Clause(アメリカ合衆国憲法が州間通商を連邦議会に委ねている(Commerce Clause)という規定から、州が州際通商を不当に制限する法律を制定してはならないという暗黙の原則を導き出したもの)や、経済的自由をなぜ適正手続保障規定(Due Process Clause)で保護するのか、などは、自分の中で長い時間にわたって解けない疑問だったが、この本を読んでようやく腹落ちした。
しかし、元も子もないが、同じような機能は、今であればChatGPTに担ってもらうこともできると思うので、必須ではないとも言えるか(私が憲法を初期的に勉強していた数年前には、生成AIは流行っていなかった)。実際に、「米国の憲法では、経済的自由をなぜ適正手続保障規定(Due Process Clause)で保護するのか」と訊いてみたところ以下の回答が得られた。
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良い問いです。「経済的自由(economic liberty)」を適正手続保障(Due Process Clause)で保護する理由は、アメリカ合衆国憲法が経済活動の自由や契約の自由といった“自由”を、手続き面だけでなく実体的にも重要な権利とみなしているためです。
以下のような歴史的・理論的背景があります:
🔹 理由1:自由という言葉の広い意味合い
第14修正条項は、「生命、自由または財産を正当な法手続きなしに奪ってはならない」と規定しています。この中の「自由(liberty)」という語句を、単に物理的な自由に限らず、契約する自由、職業を選ぶ自由、働く自由、商売を営む自由などを含む広い概念として解釈したのが出発点です。
🔹 理由2:実体的適正手続(Substantive Due Process)の理論
本来、”Due Process” は手続き的な保障(手続きの公正)を意味しますが、19世紀末から20世紀初頭にかけて、裁判所は「内容(substance)が不合理な法律も、たとえ手続が正しくても違憲である」という理論を発展させました。
→ これが「実体的適正手続(Substantive Due Process)」という考え方で、
→ Lochner v. New York(1905)などで、労働時間制限法が契約の自由を不当に制限しているとして違憲と判断されました。
🔹 理由3:連邦憲法は経済的自由を明文では保護していない
アメリカ憲法には、「経済的自由」や「契約の自由」を明示的に保障する条文は存在しません。そのため、判例法によって既存の条文(とくに14修正)から導かれたという経緯があります。
🔹 ただし現在の裁判所はより抑制的
現代の合衆国最高裁は、Lochner時代のように経済的自由を積極的に保護する姿勢は取っておらず、経済規制には立法府の裁量を大きく認める傾向にあります(例:West Coast Hotel v. Parrish, 1937)。
今日の実体的適正手続の主な対象は、婚姻、家庭、中絶などの個人の自律に関する権利です。
まとめると:
経済的自由は、「自由(liberty)」の一部とみなされ、実体的適正手続の枠組みの中で、特に19〜20世紀初期に保護されたという歴史的背景があります。
この背景を踏まえて、Lochner v. New York やその後の転換点である West Coast Hotel 判決などを読むと、流れが見えてきます。
判例の要点もあわせて紹介しましょうか?
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はっきり言って、かなり良いと思う……。
・うに弁護士先生「Essayのためのシンプル論証集」
「長い正確な論証を覚えようとしても本番では書けないという経験から、多少の不正確性を許容しつつ、最低限の要素を含めたあっさりとした論証を目指しました。」というコンセプトのもと、「1科目最大で3ページ、全科目合わせて35ページ」という驚異的なコンパクトさを実現した論証集。
自分は上記の「Smart Sheets」と本論証集を二重で活用した。またSmart Sheetsに載っていない論文オンリー科目の主要インプット教材として活用した。
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コーヒーブレイク~「条文」について~
カリフォルニア州司法試験(おそらく他の州も)の勉強をしていて一定期間が経つと、おそらく日本人であれば誰もが、「あれ、なんか条文が全然出てこなくないか?」と気づくはずである。
現地の学部生やロースクール生が使う基本書的な教材は当然違うかもしれないが、司法試験用に特化したインプット教材(日本人ノートやSmart Bar Prepの教材)には、基本的には、覚えるべき規範に条文番号が書かれていない。それが判例法であっても、元となった裁判例名が出てこない。
例(Smart Sheetsから憲法の一論点を抜粋):
Procedural Due Process – Certain procedures are required when the govt. deprives a person of life, liberty (freedom), or property (an entitlement that is not fulfilled).
To determine the procedure required, the court balances the: 1) Importance of the private interests; 2) Risk of error under current procedures and the value of additional procedures; and 3) Importance of state interests and the burden that arises from additional safeguards.
ご存知のとおり、日本の司法試験であれば、条文の引用がない答案はゼロ点である。
全ての答案が、条文に始まり、条文に終わる。何法何条の何という規定(のどの用語)の解釈適用を問題とし、解釈し、あてはめ、結論としてどうなるのかを述べることが求められている。それこそが法律家の役割であり、単なるエッセイと法律文書を区別するものである。
しかしカリフォルニア州司法試験の場合には、どうやら、条文(や判例法であれば、その判例)から派生して独り歩きをするに至った「司法試験専用の規範体系」的なものが存在しており、そこに含まれる規範を述べる限りにおいては、元となる法律の条文(法源)や裁判例には辿らなくてよい、言及もしなくてもよいといった考え方があるように思われる。なお、同様の問題意識について述べたものとして、内田清隆先生のブログ記事も参照されたい。ただし、内田先生は、私よりも条文の取扱いに関して真摯でいらっしゃるように見受けられる。
そのため、結局、私はインプットにおいても、アウトプット(特に論文試験)においても、基本的に条文の存在は無視した。論文試験においての「無視」とは、つまり自分の答案において法律の条文への言及がない(規範を述べているが、その規範がどの法律のどの条文から導かれるものかを述べていない)という恐ろしい事態が出来していることを意味する(これは最後の最後まで、本当に怖さと気持ち悪さが拭えず、これは日本の法律家の性だったか)。
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【アウトプット教材】
~続く~
※本記事にはアフィリエイト広告は含まれない。