読みました。
大好きな澤村伊智先生の最新作。
面白いは、面白かった。あっという間に読めたし。
が、澤村先生には珍しく、まずホラーではないし、(ホラーではないことは全く問題ではないにしても)物語のタネ的な部分の作り込みが甘い気がして、少し残念だった。
(ネタバレになるが、)大地の民というカルトの「能力」の仕組みが、結局、旧日本軍の研究所で見つけたボツリヌス菌だったというオチなのだが、例えば、現教祖や広報担当の茜さんの重度の麻痺が治ったのもボツリヌス菌を利用したボトックス注射でした、という説明についても、さすがに無理があると感じた。
現教祖や広報担当の茜さんも、二人とも幼いころは自力で歩けないほど重度の麻痺(茜さんに至ってはずっと車いすで生活しており体も曲がっているとの記述がある)を患っていたところ、二人ともボトックス注射によって瞬く間に(それこそ宗教的な不思議な力によって)健常になったかのように描写されている。
しかし、ボトックス注射はあくまでも、無毒化したボツリヌス菌を注射することによって筋肉を弛緩させ、麻痺により長期間筋肉が動かなかったために関節が強直化してしまう痙縮や拘縮など「体のこわばり」を和らげるための対処療法的治療であって、その原因の「麻痺」(体が思うように動かないこと)そのものを治すことができるものではないし(ボトックス注射は、痙縮などの「リハビリの邪魔」を取り除き、リハビリを可能にするためのワンステップに過ぎないものである)、仮に「体のこわばり」を和らげた後のリハビリで自力歩行可能なまでに回復できたとしても、物語の真の主人公(テレビマン)が元気になった二人を見て全く麻痺の影響を感じないほどにまで(つまり、誰から見ても歩き方や身の振り方に全く違和感がない程度に)回復するというのは、それ自体が奇跡に近い現象だと思う(むしろこここそ、神の芸当としか説明がつかないのではないか)。
あと、クライマックスの「茶番劇」も、さすがに無理がある気がする。屋外で薬をばらまいて、効果的に公園全体にいる教徒に満遍なく薬効を及ぼすというのは、少し現実味がないのではないか。
とはいえ、(個人的になまじ関連する前提知識をたまたま持っていたために気になった点が多かったものの)エンタメとしては楽しめたので、引き続き澤村先生の次回作には期待したい。
以上です。